治療の開始時期

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矯正治療に一番重要なのが顎の骨の成長です。上顎骨は頭の骨と接しています。
そのため脳の成長に大きく影響されて、体の骨や下顎骨の成長より前に大人の大きさに成長します。
その後体の骨と下顎骨が成長のピークを迎えて、大人の大きさに成長します。
また女性のほうが男性よりも成長のピークが早く、より早く大人の大きさに成長します。
小学生では女の子の方が背が高いのに、中学生以降では男の子の方が背が高くなるのは、この成長の時期が異なるためなのです。
治療装置の治療の流れの中でも説明いたしましたが、乳歯が残っているお子様では、この顎の成長を利用する部分的治療が非常に重要となります。
十二歳臼歯と呼ばれる六歳臼歯の後ろの大きな歯が萌出完了すると、顎の骨の成長はほぼ完了します。
これ以降は、すべての永久歯をコントロールする全体的治療が必要となります。

部分治療のメリット

部分治療のメリットは多数ありますが、反面トータルの治療期間は長くなるというデメリットはあります。
部分的治療は早期治療とほぼ同じ意味で用いますが、あえて当院では早期治療は使わないで部分的治療を用いています。
早期治療としてのメリットは確かにありますが、早期治療では将来の永久歯列での全体的治療が全く必要なくなると誤解されてしまう可能性が高いので、部分的治療を用いています。

  • 顎の骨と歯の大きさのアンバランスを解消するために行う、途中の永久歯の抜歯を避けることができる可能性が高くなります。
  • 永久歯の抜歯を避けることにより、全体的治療の治療期間が短くなる可能性が高くなります。
  • 骨格的な問題をより改善することで、外科手術を避ける可能性が高くなります。
  • 成人になってから始めた場合に生じる問題が避けられる。

治療が必要な歯並び

以下に矯正治療が必要な歯並びや、咬み合せについて詳しく説明しております。

叢生の治療

ガタガタの歯並びや八重歯に代表される叢生は、顎の骨の大きさとそこに並ぶべき歯の大きさとのバランスが悪く、きれいに並びきれない状態を言います。上顎と下顎の咬み合せの問題に併発する歯並びの問題となります。
現代人は栄養素が多く含まれ、調理された物を食しています。
このため顎が本来持っている大きさに成長しきれないお子様が増えています。
部分的治療でそのお子様本来の顎の大きさを回復することで、将来の叢生を予防していきます。たまに顎を成長させるというと「ゴリラみたいになりませんか」と心配する親御さんがいらっしゃいますが、本来の大きさに回復させるだけなので、顔つきが大きく変わるほどの変化は生じません。将来的に叢生になるかは、乳歯の歯並びの時点で判断できます。
前歯の永久歯は乳歯よりもかなり大きいので、前歯の永久歯が萌出する前に乳歯と乳歯の間に隙間がないと、かなりの確率で叢生になります。
部分的治療の開始は写真のお子様のように、側切歯と呼ばれる2番目の歯が内側に萌出してきた頃に始めます。
顎の骨の大きさとそこに並ぶべき歯の大きさとのバランスが著しく悪い子供さんの場合には、この時期が非常に大切になりますので、側切歯が萌出開始した時期に、一度矯正専門医に相談されることをお勧めいたします。
顎の骨の大きさとそこに並ぶべき歯の大きさとのバランスが著しく悪いのに、小学校の低学年で部分的治療を開始しなかった場合には、永久歯列の完成後に途中の永久歯を抜歯する矯正治療の可能性が高くなります。

上顎前突の治療

上顎前突は俗に「出っ歯」と呼ばれ、上顎前歯が下顎前歯よりも著しく前に出ている状態になっております。
指しゃぶりの癖が小学生になっても止められなかったり、鼻が詰まりやすく口呼吸を行う場合が多いときに生じます。
上顎骨より下顎骨のほうが後で成長するので、普通ならば徐々に上顎前突傾向が改善されますが、上顎前突の方はそのまま成長してしまいます。
つまり悪い成長のサイクルは、自然に良い状態になることはないのです。
上顎前突の方の歯並びは、写真のようにVの字になっている場合が多いです。
本来はUの字ですので、その差に大きく影響されます。
白人は上顎骨が立派なタイプの上顎前突になりやすいですが、日本人では下顎骨の成長が少ないタイプの上顎前突になりやすいです。
そのため部分的治療の開始時期を考えるときに、下顎骨の成長が重要になります。
成長の活発な時期に本来の成長の形に近づける必要があります。部分的治療は小学校の低学年で開始します。歯並びをUの字に変えたり、上下の奥歯の位置関係を改善したり、下顎骨の成長を妨げる問題を改善します。
部分的治療を行わずに永久歯列が完成した場合には、上顎前歯を大きく後方移動させるために、途中の永久歯の抜歯が必要となる可能性が高くなります。

下顎前突の治療

下顎前突は俗に受け口と呼ばれます。本来上顎前歯の後ろに位置している下顎前歯の方がより前に出ている状態です。
小学校の低学年のころまでは、咬み癖として受け口になっている場合が多いのですが、この咬み合わせのままでは、将来の下顎骨の活発な成長に伴って骨格的な問題に変化します。
早期に咬み合せの状態を正常にする必要があります。
部分的治療の開始時期は祖父母、両親、兄や姉など近親者に下顎前突が認められ、かつこの時点ですでに骨格的な問題が大きそうな子供さんは、乳歯のときから治療を開始する場合があります。一般的には、小学校低学年で開始します。
乳歯のときやや下顎前突傾向であっても、永久歯の萌出に伴い自然に改善される場合もありますし、永久歯の少しの位置異常ならば、萌出開始直後に割り箸やアイスキャンディーの棒を利用して改善することもできます。
そのため写真の子供さんのように、上顎の真ん中の永久歯が萌出し始めて下顎前突ならば、一度矯正専門医に相談することをお勧めいたします。
この時期に部分的治療を行わなかった場合でも、上顎骨と下顎骨の位置のバランスの悪さ、つまり骨格的な問題が少なければ、永久歯列完成後の全体的治療のみにより改善されます。
しかし矯正治療のみで改善されないほど骨格的問題がある場合は、外科的に下顎骨を後退させる手術が必要となります。

開咬の治療

開咬とは写真のように、上下の歯の垂直的咬み合せがない状態です。そのため食べ物を噛み切ることができません。
特に麺類が食べ難くくなります。
普通は赤ちゃんの哺乳している時の舌の動かし方が、離乳を経て食べ物を噛み砕き飲み込む時の舌の動かし方に自然に変わっていきます。
この移行がうまくいかなかったり、指しゃぶりの癖が長期間続くことなどが原因と考えられます。
永久歯の高さの問題だけであれば矯正治療のみで治療できますが、骨格的な問題が著しい場合は、外科手術の併用が必要となります。
そのため写真の子供さんのように前歯4本が萌出している状態で、垂直的な咬み合せがない場合は矯正専門医に相談されることをお勧めします。
部分的治療では舌が前に突出できないようにしたり、舌の正しい動かし方のトレーニングを行います。将来骨格的な問題が著しくならないようにしていきます。
永久歯列完成後、全体的治療が必要ならば全体的治療に移行していきます。

埋伏歯の牽引治療

歯が本来萌出してくる時期になっても萌出してこない場合があります。この状態を「埋伏」と呼びます。
歯の萌出には個人または左右差がありますが、半年以上の左右差があれば先天的な欠損がないか歯科医に相談しレントゲン写真で確認することをお勧めいたします。
埋伏の可能性がある場合、直ちに矯正治療を開始します。
治療内容は埋伏歯の萌出に必要なスペースの確保して萌出を促して、正しい場所に誘導したり、萌出力が弱く自然萌出が困難なときは、歯の牽引して正しい位置に移動させます。
写真の方は高校生になっても3番目の乳歯が残存していたため、その乳歯を抜歯して永久歯の誘導、牽引の矯正治療を行っています。